産後うつは甘えなのか?

心の運動療法家、岡本浩之です。

産後うつは甘え?

Twitterで目にしたのですが…ある方のツイートが話題になっていました。

もし奥様が「産後うつ」を言い訳にして家事や育児を怠ったら怒鳴りつけて躾けましょう。私は産後3ヶ月で衆議院議員選挙を全力で駆け抜けました。

「産後うつ」は「甘え」です。

「産後うつ」なる病気は地球上に存在しません。誰かが勝手にあると思い込んでいるだけ。(icdにもdsmにもない。産褥期うつ状態F530はあるが、状態であってうつではない)

これからなる世界は、甘ったれた精神ではならんのです。

という内容です。(ご本人のツイートをそのまま引用しました)

「産後うつ」という診断名はない?

確かに「産後うつ」という疾患名そのままではICDやDSMの診断基準には載っていないですが、だから甘えだ!というのは随分と飛躍し過ぎていますね。

一般的に「産後うつ」と言われる状態を、ICDやDSMに記載された診断名で表記することは可能です。
※ 「産後うつ」と一括りにされますが、うつ症状の内容や程度によって名称は変わってきます。

妊娠、出産という大きなストレスがかかるのですから、当然精神的にも不安定になりやすいです。
甘え(サボっている、だらしないというマイナスな意味を含めて使っている言葉と解釈しました)で片付けることは出来ません。

産後すぐの選挙活動は確かに大変だけど

たとえ周囲の協力があったとしても(協力がなければ尚更のこと)、産後3か月で衆議院議員選挙を全力で駆け抜けるのは相当な労力だったかと思います。

選挙の結果がどうであれ、その頑張りはとても素晴らしいことです。「落選したやん!」とからかって揶揄すべきではないと思います。

ただ、ご自身が出来て他の人が出来ないことを「甘えだ」、と切り捨てることはいかがなものかとも思います。

甘えることが苦手な人たち

日頃の診療で、うつ状態になる人達は適切に甘えることが苦手で、甘えることが出来ず耐えてため込んだ結果潰れてしまうパターンが多いとも感じます。
安易にうつ状態に逃げているのではないです。

※そうではない方もいらっしゃることは申し添えておきますが。

うつ症状に苦しむ方々が益々声を上げづらくなるのではと感じたので、記事にしました。

ツイート主の過去のツイートを見ていると、「精神疾患であることを理由に責任逃れがまかり通っている」という憤りがあるのかなと感じました。

確かに事件の犯人が精神疾患であることを理由に減刑される、というのは納得いかない人が多いでしょう。

しかし、精神疾患を有している=何をやっても許される ではないです。

私も精神鑑定に従事していたことがありますが、精神疾患を有する加害者の責任能力の有無については、(当たり前ですが)かなり慎重に検討を重ねて判断を下しています。何でもかんでも「精神疾患だから許してあげてよ」なんて甘いものではないです。

もちろん、被害者やその遺族の方からすれば納得できないとは思います。私の近い方が被害を受け、加害者が精神疾患を有していた場合、私自身が冷静にこんな話が出来るとは思えません。ただ、安易な判断をしているのではないとだけは説明させてください。

過去の大きな事件の鑑定書は書籍の形で我々が目にすることも可能ですので、興味のある方はご覧ください。

精神疾患ってどういうもの?

私たち精神科医の仕事は精神疾患の治療をすることですが、ではこの「精神疾患」とは何でしょうか?

精神疾患には私が治療を受けているうつ病の他に、双極性障害(躁うつ病)、統合失調症、パニック障害、認知症などがあります。

これらの精神疾患の存在に否定的な方々は、「気のせいでしょ?」「病気だって言ったもの勝ちだよね?」「甘えているだけでしょ?」といまだに考えているようですが、気にしなかったり甘えを捨て去れば治るものではもちろんありません。

また、「医師が製薬会社と結託して薬を売るために病気を作っている。だから医師は治す気もない。」などと陰謀めいた話しをする人もいますが、私の知る限りの医師は精神疾患を意図的にねつ造したり、治さずに薬漬けにしようとは微塵も考えていません。簡単には治らないことや一人一人にかける診察時間の短さからそのように疑われてしまうことも多いので、私たち精神科医が反省すべき点でもありますね。

ただ、気のせいでも医師の陰謀でもないとは言っても、精神疾患についてはまだまだ分かっていないことが多いです。

現在有力な仮説として言われていることは、「脳の神経伝達物質の不具合」「脳内のBDNFの減少」です。

脳には1000億以上ともいわれる数多くの神経細胞が存在します。神経細胞と神経細胞の間を「神経伝達物質」というものが動いて、情報を神経細胞間で伝達します。セロトニン、ノルアドレナリン、ドーパミンなどという名前を聞いたことがあるでしょうか?

これらは代表的な神経伝達物質で、セロトニンは気分の安定に関わり、ノルアドレナリンは集中力、意欲、興奮、ドーパミンは意欲、快楽などに関わります。

神経伝達物質の働きが悪くなるもしくは働きが過剰になりすぎることで、精神疾患を発症すると考えられています。

精神疾患の治療に出てくる薬は、これらの神経伝達物質の働きを調節するために使われます。

もう1つ大切なのが「BDNF」というもので、この名前はランニングと精神疾患の治療や予防のお話しで再度出てきます。

BDNFとは「脳由来神経栄養因子」のことです。これは神経細胞の肥料となるもので、神経細胞を新しく作ったり、神経細胞を発達させたり、神経細胞が傷つかないように保護する働きがあります。このBDNFの量が少なくなることも、精神疾患発症の原因と考えられています。

これらのことから分かるとおり、精神疾患は「精神」という言葉がついているものの実際には脳内の問題と考えられています。本人の気の持ちようだけでコントロールすることは出来ません。

では、どのようにして精神疾患は発症するのでしょうか。

これに関してもまだまだ分かっていないことが多いです。個人差があるため一概には言えませんが、発症のしやすさを元々持っていて、それに何かしらのストレスが一時的にもしくは慢性的に加わって、やがて発症するという形なのかなと考えています。

一卵性の双子が同じ環境で同じように育ってきても一人だけ精神疾患を発症するケースも少なからずあり、遺伝だけで決まる、環境だけで決まる、ストレス因子だけで決まる、ということはないようです。

これだけでは漠然とした話しばかりで理解しにくいと思うので、ここからは私自身を例に精神疾患の中でもうつ病を中心にお話しします。

既に話したように、私はうつ病を中学時代、高校時代、大学時代、社会人時代と計4回繰り返しています。

そう話すと、私の表向きの経歴を詳しく知っている方には一様に驚かれます。

「中学受験をして難関進学校に進み、高校時代は全国模試で総合1位を3回取って、東大理三に現役合格をして、国家試験に受かって医師になって自分のクリニックを開いて、マラソンもやっているのに。どこにうつ病になる要素があるの?」

確かに、この部分だけ切り取れば、何の悩みもなく生きてきたように感じられますよね。「それでうつになるって、ぜいたくな悩みじゃない?感じ悪い。」そう思われても仕方ないでしょう。

しかし、実際にはうつ病を繰り返して、失敗はしたものの自殺も試みました。今でもうつ病が完全に消え去ったのではなく、薬を飲んで、再発しないように気を付けながら生活しています。

そんな私が自分自身の体験を話すことで、うつ病患者さんが少しでも回復するヒントになり、まだうつ病発症予防のヒントになり、そしてうつ病患者さんの家族、友人が病気について理解しサポートするヒントになる、そう考えています。

次回からは私自身の性格や実際の症状について詳しく振り返っていきます。