医療の現場からレポート(14)

心の運動療法家、岡本浩之です。

精神科クリニックで診療をしていて感じたこと、思っていることを「医療の現場からレポート」と(大げさに)題してお伝えしていきます。

「大事な時に体を壊す癖がある危機管理能力のない人物」発言に思う

8月28日に安部晋三氏が総理大臣を辞任する意向を発表しました。

その際に石垣のりこ氏が「大事な時に体を壊す癖がある危機管理能力のない人物」というツイートを行い、大きな批判を集めました。党より注意を受けて石垣氏は謝罪をしましたが、その謝罪内容に対してもさらに批判が集まったり、「謝る必要はない。」という意見も出ていまだに「炎上」しています。

安倍政権の政治についての掘り下げた評価はここではしません。病気のこととは別に政治について賛否両論は当然あるべきだと思います。

だからといって、病気になったことを批判するような発言は許容されるべきではないです。どれだけ危機管理能力があろうとも、心身の病気は誰にでも起こり得て、病状が落ち着いていてもまた再燃、再発することも、危機管理能力のあるなしに関係なく誰にでも起こり得ることです。

日々の診療では度々耳にする批判

ただ、この「大事な時に体を壊す癖がある」発言自体は、以前から耳にすることが多い発言だなとも感じていました。病気で本来の責任を果たすことが難しくなった方が周囲の方々から投げられることが多い言葉の一つで、この言葉をついつい口に出してしまう方は石垣氏だけでなく非常に多くいる、と日々感じています。

心の中で思うのは自由ですし、心の中で留めておけないとしても気心の知れた少人数の仲間内でぼやくのならともかく、全世界に発信してしまったのはさすがに大きな問題ですが。

例えば、かなり忙しい職場内で皆が精神的、肉体的にきつい状態で働いているとします。そんな時にAさんが仕事を急に休んだり早退したり、ミスが多くなったりします。周囲の人々はAさんに対して「こんな忙しい時に何であんな態度なんだ?!」と苛立ちを感じます。

実際にはAさんは既に心身に大きな不調を抱えて、仕事が手につかないくらい追い込まれているのですが、周囲からは「やる気がない。」としか見えません。

周りからの非難もあってついに仕事に全く行けなくなり、心療内科を受診して休職が必要という診断書を出して休みます。

この時に周囲の人々は、「病気なんだから仕方ないよね。残りは俺たちがやっておくから、焦らないでゆっくり休んでよ。」という気持ちには中々なれないでしょう。

「病気だって?こっちだってキツいのを我慢しているのに。迷惑をかけた上に病気に逃げるのか。俺も診断書出して休んでやろうか?でも、そんな無責任なことはしないけどね!」と思う方のほうが多いのではないでしょうか。

皆が余裕のない状況になっている→Aさんが不調のため仕事に穴を開け始める→Aさんが仕事をサボって楽をしているように見えてしまう→皆のAさんへの不満が強まる→Aさんが病気を理由に真っ先に休職する→皆のAさんへの怒りが爆発する。

そんな図式は至る所で目にします。

石垣氏のツイートは他人事なのか?

病気だと診断書を真っ先に出して業務負荷を減らしている人が周囲にいて、私自身も心身の不調を抱えつつも、それを伏せて我慢して睡眠も食事も削って誰よりも働いている時期がありました。大変なことを引き受けると、「アイツに頼めばどうにかなる。」と思われて次々と引き受けざるを得ない状況になり、頼まれることは有り難いけど限界を感じる、そんな状態でした。

そんな時に、業務負荷を減らしている同僚が職場内でのんびりしている(ように私には見えました)姿を見て、「のんびりしているヒマがあるなら、出来ることあるだろう?!」「病気だって言ったもん勝ちなのか!」と思ってしまったことがあります。それを言ったら相手が傷つき周囲も嫌な気持ちになると思ったので、口には出しませんでしたが。

逆に、うつ病が悪化していよいよ動けなくなった時に、「自分だけ病気に逃げるのはずるい。」とはっきり言われたこともあります。「自分だけがツラいと思うな。」と面と向かって言われて、「この人には2度と心を開くまい。」と思いました。

今になって振り返ると、私に対してそう言った方自身も余裕がなくて、でも私の方が調子を崩して動けなくなって不満を言えずため込んで、耐えられなくなってつい言葉に出たのだと思います。

うっかり言葉にしてしまうリスク

そんな経験をしているので、「大事な時に体を壊す癖がある・・」という石垣氏のツイートを見て、他人事と捉えて攻撃するだけではいけないなと思いました。

もちろん、どんな理由があっても「大事な時に体を壊す癖がある」という発言自体は許容できません。心の中で思ったとしても、それを多くの人が目にする場所で表明するべきではないです。ただ、一方では「自分の思っていることを代弁してくれた。」という意見も多く目にします。

政治家の皆さんは新型コロナ禍も含めてこれまで誰も経験していない予想外のことが次々に起こり、「調子悪いから対応出来ません。」とは簡単に言えず、常に大きなストレスにさらされ続けています。大半の政治家の方が各々ストレスを抱えて仕事に向き合っている中でのツイートだったと思いたいです。石垣氏の真意は分かりませんので、私個人の都合の良い解釈かもしれませんけどね。

そして余裕がなくなって追い詰められてしまうと、誰しもがそんな発言をする危険性はあります。「自分は何があってもそんなことは言わない。」「自分は病気を持っているのだから、病気の人の気持ちが分かるので、そんな考え出て来るはずがない。」と強く思っている方であっても、です。

地味な対策だけど出来ることはある

各々が抱えるストレスを吐き出して受け止めてもらえる、自分の気持ちを整理出来る場所や時間を作ることが出来ていたら、「大事な時に体を壊す癖がある危機管理能力のない」という攻撃的な言葉ではなく発言の仕方も変わっていたのかな。

同じような考えの人ばかりが集まると、攻撃性が余計に増幅されてしまうので、熱くならずに冷静に聞いて受け止めてくれる相手がいると良いですが・・・そういう相手がいなくても、一人でも気持ちを吐き出したりストレスを軽減するための時間を毎日確保しておこうと改めて思いました。

「『朝から夜まで診療をして、事務作業をして22時から23時になる→着替えて走りに行く』までが一連の仕事です。」と半分冗談で話していましたが、私の場合は走ってある程度リセット出来ているようです。

誰かに思いを吐き出せたら良いのですが、私は自分のツラさを人に正直に話すのが苦手なので。「正直に話して相手が引いたら、相手に嫌われたらどうしよう。」という不安と、「どうせまた否定されるだけだから。」という諦めとが拭いきれず。

悩んでも仕方ないので、特性診断検査の自分の結果を見ながら自分の弱みを再確認し、ランニングをしてこよう(笑)

7つのタイプの「うつ」にも運動を

「うつ」の分類の中で、対処方針として運動が全部入っていることに気付かれたかと思います。ちょっと強引だったでしょうか(笑)

運動習慣がある方が認知症を発症しにくい、中強度~高強度の有酸素運動が精神疾患の予防や改善に有効という論文は沢山出ています。

私自身、うつ病から回復する途中で、薬の服用だけではどうも回復が頭打ちになっていましたが、ランニングによってより調子は良くなってさらに崩れにくくなりました。

連載の最初の方で、精神疾患の原因として「脳の神経伝達物質の不具合」「脳内のBDNFの減少」という仮説があるという話しをしました。

「うつ」でもやはり同様の状態が脳内では起きていると考えています。

運動することによって脳内のBDNFが多く作られたり、神経伝達物質の働きを調整することを考えると、うまく運動を活用することで「うつ」の予防や回復に役立てていけると思います。

私は一番身近な運動がランニングだったので、走って治すということにたどり着きました。

しかし、「うつ」予防や改善のための運動の中身は何でも良いと思っています。

心拍数をある程度上げるように意識すると良い、と言われていますが家で出来る簡単な筋トレの方が取り組みやすければ、それが一番良いと思います。

特に運動不足の時や「うつ」で気分が落ちている時に頑張って運動をやり過ぎると、余計なストレスになって調子を崩すばかりです。

既に話した通り、運動することによって脳内のBDNFが多く作られたり、神経伝達物質の働きを調整することが出来ます。その一方で、運動はストレスとなって脳の神経細胞を傷つけることもあります。ストレスになりすぎないような取り組み方が大事になります。

そのために大事なのは、運動に対しての考え方だと実感しています。

まじめストイック型の人間は運動を始めるとついつい過度に頑張り過ぎて追い込みます。ストレスが積み重なるので、サドンダウン型やステップダウン型の「うつ」にも陥りやすく、運動がうつの悪化を進めてしまいます。

私がランニングを再開したのはうつを改善したいという思いからですが、最初は不安が大きかったです。ランニングを再開して走れるようになると、大会に出なきゃいけないと思い、大会を意識すると、走ることでまた自分にプレッシャーをかけすぎて、うつ病が悪化するのではないかという不安が非常に大きかったのです。

精神疾患の治療に運動が良いとは言うものの、私自身が発症したきっかけは陸上競技を本格的に始めた後であり、また3回目、4回目もランニングをしっかりしている最中でした。

ランニングは好きですが運動全般は苦手で、学校の体育は苦痛で休みたいとばかり思っていました。

そういったこともあって、ランニングがうつ病の予防や治療に役立つという実感は持てず、大会に参加することを意識しただけで過去を思い出してしまい吐き気が出るは眠れなくなるはで、調子が悪化する引き金になるとさえ思っていました。

大会に出るとか考えずに軽い運動だけで満足すれば良いのでしょうが、私のことですから走り出して体力が付いてくるとまた記録を狙いたくなるのは明らかです。記録を狙うには無理をすることも必要になります。

その一方で記録を狙って走ることが全て悪いのであれば、そういったランナーが精神疾患を発症する割合は多くなっても良さそうですが、私の知る限りそのような様子は見受けられません。

私はどのようにランニングをしたら良いのかを考えた結果、一定の答えが出ました。私のような、うつになりやすい人間がうつの予防や治療に運動を活かすためには、運動に対しての考え方や休養の取り方を強く意識することが重要だと実感しました。

ストイックにとにかく追い込むことに慣れている私にとっては、考え方や休養について意識することは中々難しかったのですが、時間をかけて徐々に出来るようになってきました。

「うつ」のタイプ分けと対処法

前回お示しした、7つのタイプ分けとその対処方法について簡単にですが記載してみました。

①ヘビーストレス(ステップダウン)型

誰もがなり得る最も多いケースです。ストレスが徐々に積み重なって、誰が見ても耐えられそうもない重さとなって押しつぶされるケースです。

②まじめストイック型

やり出すと時間を忘れて集中し、完璧を目指すがゆえに、ふと躓いた時や大きなヤマを越えた時に燃え尽きてしまうケースです。

[対処方針]

①②の防止策は、ついついやり過ぎていないか、細やかにウォッチして声かけする役割を、上司だけでなく同僚も担うことです。もちろん自分でもやりすぎていないか注意をすることが必要ですが、なかなか自分でブレーキをかけることは難しいです。

1時間作業をしたら5分の休憩を必ず入れる、休日は30分運動の時間を作る、などストレス対策を具体的に組み込む必要があります。

③サドンダウン型

「え?あの人がうつに?」と言われるのがこのケースです。

もともとメンタルが強いと本人も周囲も自覚していて、周囲からは信頼され、その信頼に応えるよう本人は仕事を引き受けて、周りも頼みやすいので頼みすぎて、ある時急に潰れてしまう、そんなタイプです。①と似ていますが、徐々にうつになる①と比べて、予兆が見えず本人も周囲も気付きにくいので注意が必要です。

④ロンリー・トンガリー型

自我が強く、いつでも誰に対しても我が道を貫く、軋轢を恐れない強気姿勢で常にいたのに、その自我、自信がふとしたことで揺らいだ時に、一気にうつに突入してしまうケースです。

周りとのあつれきが大きく孤立してしまい、居心地の悪さや自分を分かってもらえないつらさから調子を崩します。

[対処方針]

③と④の防止策は、周囲が本人の価値観や行動パターンを認めつつ、うまく主張を他人に譲るようにさせたり、相手に合わせることができるようにその人のコミュニケーションをより柔軟なものに変えていくことが有効です。思考の柔軟さを出すには、ただ考え方を変えようと頑張るのではなく運動も取り入れるのが有効です。運動をして脳の神経のバランスを整えると、より柔軟に考えやすくなります。

⑤耐えて笑って型

相手を立てるがゆえに、全体の調和を守るために、いつも顔で笑って心で泣いて、自分を押し殺して、その先に受容限度を超えてある日ポキリと折れてしまうケースです。

[対処方針]

明るく社交的に振る舞っていてうつとは無縁なタイプのように見えますが、心の中ではストレスを溜め込んでいて、ふとした時に突然怒りっぽくなったり、愚痴を言い続けたりと豹変します。溜まったストレスをはき出す相手を持つ、相手がいない場合は運動して気持ちをリセットする時間を必ず作る、という「ストレスをはき出す場所」はしっかり確保しておきましょう。

⑥ドキドキ顔色うかがい型

不安が強くいつも緊張し、ちょっとしたことで落ち込みやすい性格で、相手の心理を必要以上に過敏に感じ取って、妄想レベルの想像をして不安に押しつぶされてしまうケースです。

[対処方針]

⑤は気配りが過ぎて知らないうちに我慢を重ねてしまっていて、⑥は小さなことが不安につながってしまっているので、リラックスできる時間を作るように、自分の存在に自信を持てるように、周囲の声かけや配慮が必要となります。自分で自信を持たせるためには一人で出来る運動を自分なりの目標を立てて継続してみると良いですね。

⑦ライトうつ型

嫌なこと、責任がかかることには過敏に反応して落ち込んで潰れやすい一方で、ストレスの少ない環境ではのびのびと元気に動ける、そんなタイプのうつです。「新型うつ」「現代型うつ」という名前で問題になったのがこのタイプですね。

一見、本当に調子が悪いのかどうか、周囲から判断するのが難しい場合もありえます。

「仕事では調子悪そうなのに遊ぶ時には元気だな。」、「休職中なのに旅行には行けるんだな。」と周囲から非難を受けやすいですね。

[対処方針]

他の6つの型と比べると、より重いうつになる前に本人が対処している、ブレーキをかけるタイミングを無意識に知っているとも言えます。その判断を理解しつつ、会社なりコミュニティなりで果たす役割を、様子を見ながら少しずつ増やして自信を与えていくことが大切です。重くなることを予防するためには運動を取り入れると良いですね。

1つのタイプだけに当てはまる方もいれば、複数のタイプを併せ持っている方もいるかと思います。私自身は、睡眠時間が平均3時間くらいで診療などをして、休診日にも非常勤で働きに出てあまり休まっていないので、①ヘビーストレス(ステップダウン)型に当てはまりますね。さらに、やり出すと時間を忘れて熱中するので②まじめストイック型にも当てはまります。また、ニコニコしてあまり自分のツラさを見せず、うつ病の症状が重い時でも「のんきそうだね。」と言われていたくらいですから、⑤耐えて笑って型にも当てはまります。人の顔色を気になって過剰に考えてしまうので⑥ドキドキ顔色うかがい型でもあります。

当てはまるものが多いほどうつに陥りやすいので、再発しないように気を付ける必要がありますね。

どれに当てはまるか、これを読んでいる皆さんもご自身の言動を振り返ってみて下さい。