薬を正しく理解する

精神科医として17年勤務しておいて、今更「薬を正しく理解する。」というのはおかしな話しではありますが。

私は中学時代に市販の風邪薬を一気に飲んでしまったり、大学に入ってからは通院しましたが、吐き気や倦怠感の副作用が強すぎて、医師には言わず自己判断で中止しました。そして時々思いだしたように飲んでみては強い副作用でまた飲むのを中止して、ということを繰り返していました。

医師になってからようやく、薬の副作用や効果について知識として深く理解しました。私がうつ病になった時にも、今度こそ医師の処方通りに服用し、副作用についても伝えました。

しかし、知識として理解しているのと実体験では印象が全く違います。

「抗うつ薬は効果が出るまでに時間がかかる。効果が出るまでは頻回に処方を変更するのではなく、一定期間待つ必要がある。」と分かっていても、病状があまりにもツラくとてもではないけど待てませんでした。待てずに医師にお願いをして、何度か変えてもらいました。変えた結果、一時的に症状が落ち着くことはあってもまた悪化することを繰り返していました。悪化するとまた耐えられずに変更して・・・を繰り返してしまいました。

結局一番効果があったのは、最初に服用していた抗うつ薬でした。仮に抗うつ薬を最初のまま変えずに服用していたら、もっと改善が早かったのかもしれません。変えていなくても効くまでに同じくらい長い時間がかかった可能性もあるので何とも言い様はありませんが。

効果が出るまで待たなければいけないことのツラさと共に、効果が出るまでに待つことの大切さも実感しました。診療で患者さんに説明する際には、私の体験したことを強く意識しながら、実感を込めて伝えるようになりました。

また、薬の副作用が人によっては強く出ることは知識として、あるいは診療の中で知っているつもりでしたが、死にたい気持ちがより強まるような重い副作用を経験して、改めて薬の怖さを思い知りました。

私はある薬を服用して、体がムズムズしてじっとしていられない症状が出て耐えられなくなり、窓からすぐにでも飛び降りたいような気持ちになりました。飛び降りそうになりましたが、実行しようとしたその時に他の人に声をかけられたりして思いとどまりました。

その薬は決して特殊なものではなく、大きな副作用なく服用しているものでした。精神科だけではなく、内科でも割と出されるようなありふれたものです。依存性の高いものでもありません。また、服用量も決して多いわけではなく、むしろ今後もっと増やした方が効きやすいのではと思うような量でした。最初は副作用だと気付かず、うつ病の症状が悪化して死にたい気持ちが強まったのかと思いました。しかし、もしかしてと思ってその薬を中止したら、死にたい気持ちはありますがじっとしていられない、窓からすぐにでも飛び降りたい切迫感は減りました。

副作用を気にしすぎて少ない量をダラダラ服用し続けるのも実際には良くないのですが、副作用の訴えには敏感であり続けようと考えています。

精神科で扱う薬に関しては否定的な意見も多くあります。話しを聞かない医者が薬漬けにして楽をするためのもの、危険なもので飲んだら余計に悪くなる、などと言われています。

薬の処方の仕方について、私たち精神科医はまだまだ気を付けていかないといけません。必要以上に多くの薬を、「患者さんが希望するから」と言い訳して処方していないか。増やすことは積極的でも、減らせる薬があるかどうかについては充分考えていないのではないか。反省して改善する点はあります。

ただ、薬は危険だからどんな症状でも一切飲むべきではないという極端な考えには私は医師としてだけではなく一人の患者としても賛同出来ません。

合う薬があったからこそ、私のうつ病は改善し、死にたい気持ちに完全には流されずに、こうして生きていられると実感しています。今も薬は服用していますが、完全になくすと何かの拍子にまたうつ病が悪化して、今度は死にたい気持ちに抗えないかもしれません。そうならないために、いつまでなのか分かりませんが薬の服用を続けます。

ただ、副作用から命を落とす可能性も実感したので、病状が崩れない範囲で少しでも減らせる薬があれば減らしたいと考えています。

また、薬を飲んでいるから後は何も気にしなくても大丈夫、とも思いません。薬を飲むだけでは私のうつ病はコントロール出来ないと感じていました。薬を使いつつも、何かプラスαのことをしていかないとまた再発するだろうと考え、そのプラスαとして私に合うとたどり着いたのが、うつ病になるきっかけでもあったランニングでした。

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