心の病気の伝え方

心の病気は一般的には「脳の神経伝達物質の不具合」「脳内のBDNFの減少」などと説明されます。

親が心の病気だと子供も必ずなるのではないか、親の育て方が悪いから心の病気になった、ストレスがあるから心の病気になるんだろう、などと言われますが、実際のところは分かっていないことも多いです。

同じ遺伝情報を持つ一卵性双生児でも片方だけが心の病気になることもありますから、遺伝だけで決まるものではなさそうです。

同じ環境で同じように育っても、心の病気になる人とならない人がいるので、環境だけで決まるものでもなさそうです。

過度のストレスは原因になりますが、ストレスのない生活を送ることはあり得ません。

分からない中で私が漠然とイメージしているのは、心の病気になりやすい素因を持っていて、それに環境的な要因が重なって、耐えられるレベルを超えると症状が出てくるというものです。誰もが心の病気になり得ると思っています。

誰もがなり得るとしても、心の不調を他人にどうやって言葉として伝えるのか難しいなと悩むことはないですか?

体の不調だと、「熱が出ている。」「お腹が痛い。」「胃が気持ち悪い。」などと言葉で説明しやすいのですが、心の不調は伝え方が難しいと思われるかもしれません。

せっかく受診をしたのに、「こんなんでうちに来られてもねえ。」と鼻で笑われたとか、「こんなの病気じゃないんだから来るな。」と説教されたとかいう話しも聞きます。

個人的には、医師がいきなりその言い方をするのはおかしいと感じます。

心の悩みがある場合、体の症状で困って内科に行ったけど「内科じゃなくて心の問題だよ」と言われた場合には、どんな症状であっても受診してみて良いと思います。

それをいきなり笑ったり怒ったりする病院は、「そんな程度の低いところ、こっちから行ってやらないぞ!」くらいの上から目線でもいいと思っています。

医師ならばまずは困っている内容を聞いて受け止めて、それが治療の必要がないものであれば、心配しないで大丈夫ですよと柔らかく伝えるべきではないでしょうか。

最初から受診の基準が分かる人なんていないですよね。それを怒ったり笑ったりするようなところはこちらから見限りましょう。

でも、そうはいっても、せっかく緊張して行ったのに、怒られたり鼻で笑われたりして平気でいられる人はまずいないです。

私が中学1年生の時に、心の不調から吐き気が強くなって走れなくなり、倒れたことがあります。その時に、病院で何をどう説明したら良いのか、途方に暮れました。黙って何も言えない私の代わりに親が説明してくれたのですが、「走ることがプレッシャーになって気持ち悪くなってしまう。」というような説明でした。それに対して医師は、「それは病気じゃないよ。スポーツやるんだったらそれくらい乗り越えないと。」と怒るのみで、私のつらい思いは伝わりませんでした。

うまく伝わらない・・・・・

そんな経験があるので、どうやったら伝わるのかというのは悩む方の気持ちは理解できているつもりです。

私が皆さんにお教えしたいのは、「生活、仕事にどのような影響が出て困っているかを医師に伝えてみましょう。」です。

例えば、「夜寝ようとしても眠れなくて、仕事に行ってもずっと頭の中がぼんやりして、一応仕事はしているけどうまくできている気がしない。」

「胸が苦しくて。じっとしていられないくらいの感覚になって動き回らずにはいられなくて。すべてのことに集中できない。」

「朝だるくて、起きないといけないのに起き上がることが出来なくて、だらしがないと親に怒られて言い合いになる。」など。

もちろんこれだけで診断はつきません。しかし、このように「生活や仕事に影響が出て困っている」ことを話して頂くと、我々精神科医は患者さんが実際に困っている様子を思い浮かべながら、さらにお話しを引き出していくことが出来ます。診断や治療の進め方を考えていくことが出来ます。

何をどう話したら良いのか分からない場合には、「生活や仕事に影響が出て困っていること」から順番に話すようにしてみてください。

この「生活や仕事に影響が出て困っている」という基準はとても大切です。これは実際にあった話しですが、ある方がこのようにおっしゃっていました。

「仕事に行くのが苦痛で朝起きられなかったらうつ病だ。って記事を見たけど。それって誰でもあるよね?俺も朝起きるの面倒だな。仕事に行きたくないな、って布団の中でしばらく葛藤するよ。じゃあ、俺もうつ病だな。」

これでは、うつ病は怠け者だと誤解されてしまいますね。うつ病の場合は、気分が落ち込む、やる気が出ない、眠れないなどの症状があって、仕事や生活に大きな支障が出てしまいます。このように、影響が出て困っているかどうかは、病院に行くべきかどうかを決める基準になります。

「ネットでうつ病の簡単なチェックがあって、試しにやってみたらうつ病で受診が必要と出たけど、別に自覚ないんだけど。」という話しも度々耳にします。

「うつ病チェックをやってみてうつ病と出たから、別に困っていないけど受診する」のではなく、「症状が出てつらくて困っていて、かつうつ病チェックをやってみたらうつ病と出たから受診する」と考えてください。

「最近眠れない日があるけど、いつもじゃないし昼間眠くもないし元気だしな。」だと受診を急ぐ必要はないけど、「眠れなくて昼間もぼうっとしてやる気が出なくて、何もできず寝ていることが増えたな。」だと受診を積極的に考える。

この違いが理解できたら、受診の基準についてはご自身の判断を信じて大丈夫ですよ。

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