心の不調は精神科?心療内科?

唐突ですが、皆さんに質問です。心の不調を抱えた時に、何科に行きますか?

精神科!という方と、心療内科!という方がいらっしゃるのではないでしょうか?

最近は「メンタルヘルス科」「メンタルクリニック」とのみ標記している病院も増えましたが、精神科と心療内科の両方を掲げているところも多くなっていて分かりにくいですよね?

この2つの科はもちろん別物です。

精神科というのは、うつ病とか、パニック障害とか、統合失調症とか、皆さんになじみのある「心の病気」を診る科です。

一方、心療内科というのは、内科ですのであくまでも体の病気を診るところです。体の病気の中でも特に、精神的ストレスなど心の不調が症状に影響を与えているものを診る科です。高血圧、胃潰瘍、じんましん、アトピー、円形脱毛症などが例です。いわゆる「心身症」というものですね。

ここで心の病気、体の病気、と分けてはいますが、心と体はつながっていると感じることが多いです。心の病気は脳の不調で、そして脳も体の一部であるということを考えると理解はしやすいですよね。

私自身を振り返ると、うつ病の症状が悪化している時には風邪をひきやすく、風邪の症状も重症化して長引きました。うつ病だから、というよりもうつ病の症状として食欲が低下したり、眠れなかったり、運動も出来ず体力が落ちていたりということが原因なのですが。

体の調子を整えると心の調子も整いやすいということは強く実感しています。その体験が、運動で治すという私の考えにもつながっています。

心療内科、精神科の両方が並べて掲げられている場合は心の病気、心の不調が関係する体の病気両方を広く診ますよ!という意味だとお考え下さい。

精神科だけしか書いていない病院が心療内科の病気を全く診ることが出来ないのかというと、そんなことはないです。心療内科だけしか書いていない病院も、心の病気にも対応できることが多いです。

ただ、中には「精神科のことはそこまで得意ではない。」という病院もわずかにあります。

心療内科だけを掲げている病院を受診する前に「こういう症状なんですが受診してもいいでしょうか?」と聞いてみると無駄足にならずに済むかもしれませんね。でも、そんな電話するのも気が引けるし無駄足になるのが心配、ということでしたら「精神科」を掲げているところにしましょう。

ちなみに・・・当院も「心療内科・精神科」と併記しています。最初は「精神科」だけにしようと思っていたのですが、「精神科、だけでは相談しにくい!」という声を多く頂いたことから、両方掲げることとしました。

受診先が決まったとして、じゃあ精神科では何をするのでしょうか?

診察ではまず、精神科医が患者さんの話しを聞きながら診断や治療方針を決めます。

ですから、困っている症状を話して頂くのですが、精神科医は患者さんが話す内容だけでなく、表情の変化。仕草など、言葉以外の情報にも注目しています。

何を話さないといけない、という決まりはないので何を話しても大丈夫ですが、心を許して良いのか分からない相手に全部は話せませんよね。話したくても、緊張して大事なことを言い忘れることもあると思います。

1回の診察で全部を話す必要はなく、また精神科医も1回の診察だけでは判断できず診察を重ねる中で診断をしたり治療方針を決めることもあるので、医師との相性も考えつつ徐々に話していくものだと、気長に構えていてくださいね。

ただ、大事なこと、漏らさず伝えたいこともあると思います。

大事なことは紙に書く、携帯電話のメモに保存しておくなどして、それを見ながら話して下さい。大事なことがたくさんありすぎて整理がつかない、という場合にはそれを全部メモして、まずは3つだけ伝えてみましょう。

1度にあれもこれも伝えなきゃ、と混乱して結局は大事なことを伝えずに終わってしまい後悔することもあります。時間をかけて少しずつ順番に伝えていく。そう考えると落ち着いて伝えやすくなります。

何を伝えるかについては、「生活や仕事に影響が出て困っていること」という基準で選んでメモをしてくださいね。

それでも話せない場合は、メモをそのまま見せてしまっても良いかもしれません。その中でどれが大事かは、精神科医が感じ取ってくれます。

メモに書くのは文字だけとは限らず、絵や図をかいてみるのも良いですね。

完璧な患者を演じる必要はないです。まずは話せる範囲内のことだけを話し、打ち解けてきたら徐々に大事なことを話していくようにしましょう。言葉で伝えるのが難しかったら、文字や絵、図の形で伝えてみる、というのも活用してみてください。

私がこれから進む道

たまたま近隣の市で勤務をしていた関係で、それまで縁もゆかりもなかった埼玉県北本市にて2011年4月に北本心ノ診療所を開業して、今年で10年目になります。

開業の柱として私は、「地域精神科医療の窓口になること」「スポーツ選手の診療に力を入れること」の2つを掲げました。

現在は1日60人くらいの患者さんを毎日診察し、休診日には市内や近隣にも出向いて相談業務などを行い、この地域の精神科医療の窓口としてだいぶ認知されつつあるのではないかと感じています。

その一方で、診察室内で出来ることには限りがあるなとも強く感じています。

どれだけ丁寧に診察しても、当たり前ですが1日の大半の時間を診察室外で過ごします。来院する患者さんの診察をすることはもちろん大切ですが、精神疾患の予防、治療のためには診察室にこもっていては限界があるとも強く感じています。外に出てより多くの人の日常に触れていくことを心がけていきたいと思います。

また、診療所を開院する際に「スポーツ精神外来」を掲げてスポーツ選手のメンタルケアにも取り組んでいます。診療形態については試行錯誤を繰り返しましたが、通常の診療と別枠でメールにて連絡を頂いて予約するというスタイルにしています。開業してから130人以上のスポーツ選手(ジュニアから社会人、実業団、プロまで幅広く)の診療を行ってきました。

現在はスポーツ選手のメンタルケアにも注目が集まり、大分理解がされるようになったと感じる一方で、私が中学1年生の時に言われたような、「それくらい乗り越えないと。」という言葉で片付けられることもいまだに多いようです。「競技を辞めればいい。」と簡単に言われてしまうことも多いようです。つらい気持ちを改善したくて受診をしたのにそう言われてしまうと、絶望的な気持ちになりますよね。

せっかく才能があるにも関わらず精神的な不調で競技を断念する選手が多いこと、スポーツに対して否定的なイメージを強く持って辞めてしまう選手が多いことは非常にもったいないと思います。せっかく選んだスポーツですから、少しでも長く続けて欲しい、そのスポーツを好きなままでいて人生に活かして欲しい、というのが私の願いです。

スポーツ精神外来を受診する選手は皆、素晴らしい才能を持ち結果も出しているのに、それを自信に変えることが出来ず悩み、精神的な不調に陥っています。診察で話しをしていく中で、不調の今でも出来ることを探していくこと、出来ることを積み重ねていく作業を一緒にしています。

多くの選手は運動しか出来ない自分を卑下しますが、何気なくやっていること自体が実はすごいのです。

診療所で患者さんと一緒に運動をしている「院内フィットネス講座」を開催しているのですが、そこに現役スポーツ選手や元スポーツ選手を講師としてお呼びすることがあります。選手にとっては普段の練習でやっている何気ない動きであっても、私や患者さんから見ると「え?こんなにもすごいことが出来るの?!」と毎度驚いています。選手達と接して、患者さんは普段の診察では見せないような生き生きとした表情をして、院内では普段見られないような良い動きをしています。スポーツが精神疾患の治療に役立っていると実感しています。

スポーツを長く続けていると、引退した時に「社会に通用しない人間」というレッテルを貼られることがあります。

スポーツの世界で生きてきたのですから、生活スタイルや考え方の違いはあっても仕方ありませんが、スポーツに専念してきた時間は決して無駄なことではありません。競技としてやってきた動きは運動療法として精神疾患の治療や予防に活かすことが確実に出来ます。また、プレッシャーのかかる中で結果を出すための取り組みは、多くの人の参考になります。

それだけ素晴らしいことをやっているのだと自覚して、競技に取り組んで良いと考えています。

スポーツ選手のメンタルケアをしつつ、スポーツを精神疾患の予防や治療に活かすこと。私自身がスポーツをきっかけとしてうつ病を発症し、繰り返して回復する過程でたどり着いた私の役割です。

多くの方と一緒に運動を楽しみながら、皆が精神疾患を予防し、発症しても治療が可能な世の中を作っていけたらいいなと思います。

薬を正しく理解する

精神科医として17年勤務しておいて、今更「薬を正しく理解する。」というのはおかしな話しではありますが。

私は中学時代に市販の風邪薬を一気に飲んでしまったり、大学に入ってからは通院しましたが、吐き気や倦怠感の副作用が強すぎて、医師には言わず自己判断で中止しました。そして時々思いだしたように飲んでみては強い副作用でまた飲むのを中止して、ということを繰り返していました。

医師になってからようやく、薬の副作用や効果について知識として深く理解しました。私がうつ病になった時にも、今度こそ医師の処方通りに服用し、副作用についても伝えました。

しかし、知識として理解しているのと実体験では印象が全く違います。

「抗うつ薬は効果が出るまでに時間がかかる。効果が出るまでは頻回に処方を変更するのではなく、一定期間待つ必要がある。」と分かっていても、病状があまりにもツラくとてもではないけど待てませんでした。待てずに医師にお願いをして、何度か変えてもらいました。変えた結果、一時的に症状が落ち着くことはあってもまた悪化することを繰り返していました。悪化するとまた耐えられずに変更して・・・を繰り返してしまいました。

結局一番効果があったのは、最初に服用していた抗うつ薬でした。仮に抗うつ薬を最初のまま変えずに服用していたら、もっと改善が早かったのかもしれません。変えていなくても効くまでに同じくらい長い時間がかかった可能性もあるので何とも言い様はありませんが。

効果が出るまで待たなければいけないことのツラさと共に、効果が出るまでに待つことの大切さも実感しました。診療で患者さんに説明する際には、私の体験したことを強く意識しながら、実感を込めて伝えるようになりました。

また、薬の副作用が人によっては強く出ることは知識として、あるいは診療の中で知っているつもりでしたが、死にたい気持ちがより強まるような重い副作用を経験して、改めて薬の怖さを思い知りました。

私はある薬を服用して、体がムズムズしてじっとしていられない症状が出て耐えられなくなり、窓からすぐにでも飛び降りたいような気持ちになりました。飛び降りそうになりましたが、実行しようとしたその時に他の人に声をかけられたりして思いとどまりました。

その薬は決して特殊なものではなく、大きな副作用なく服用しているものでした。精神科だけではなく、内科でも割と出されるようなありふれたものです。依存性の高いものでもありません。また、服用量も決して多いわけではなく、むしろ今後もっと増やした方が効きやすいのではと思うような量でした。最初は副作用だと気付かず、うつ病の症状が悪化して死にたい気持ちが強まったのかと思いました。しかし、もしかしてと思ってその薬を中止したら、死にたい気持ちはありますがじっとしていられない、窓からすぐにでも飛び降りたい切迫感は減りました。

副作用を気にしすぎて少ない量をダラダラ服用し続けるのも実際には良くないのですが、副作用の訴えには敏感であり続けようと考えています。

精神科で扱う薬に関しては否定的な意見も多くあります。話しを聞かない医者が薬漬けにして楽をするためのもの、危険なもので飲んだら余計に悪くなる、などと言われています。

薬の処方の仕方について、私たち精神科医はまだまだ気を付けていかないといけません。必要以上に多くの薬を、「患者さんが希望するから」と言い訳して処方していないか。増やすことは積極的でも、減らせる薬があるかどうかについては充分考えていないのではないか。反省して改善する点はあります。

ただ、薬は危険だからどんな症状でも一切飲むべきではないという極端な考えには私は医師としてだけではなく一人の患者としても賛同出来ません。

合う薬があったからこそ、私のうつ病は改善し、死にたい気持ちに完全には流されずに、こうして生きていられると実感しています。今も薬は服用していますが、完全になくすと何かの拍子にまたうつ病が悪化して、今度は死にたい気持ちに抗えないかもしれません。そうならないために、いつまでなのか分かりませんが薬の服用を続けます。

ただ、副作用から命を落とす可能性も実感したので、病状が崩れない範囲で少しでも減らせる薬があれば減らしたいと考えています。

また、薬を飲んでいるから後は何も気にしなくても大丈夫、とも思いません。薬を飲むだけでは私のうつ病はコントロール出来ないと感じていました。薬を使いつつも、何かプラスαのことをしていかないとまた再発するだろうと考え、そのプラスαとして私に合うとたどり着いたのが、うつ病になるきっかけでもあったランニングでした。