両親との衝突と共に始まった研修医生活

無事大学を卒業して、医師国家試験にも受かって表向きは順調に研修医生活をスタートさせたのですが、実家との間で衝突がありました。

国家試験が終わった後、実家の母親から電話が来ました。そこで今後の話しをしていたのですが、「将来は開業したいな。」という私の考えを伝えました。

開業についての明確なビジョンがあったのではありません。大学で勉強に充分身が入らない状態が続き、卒業して研究をやっていくだけの能力はない、私の勉強のピークは大学受験までだと何となく感じていました。そして、精神科医になりたいと考えた時に、小さなクリニックで人知れず働き、患者さんの話をじっくりと聞いている私の姿しか思い描けませんでした。

しかし、「開業したい。」という私の言葉を聞いた両親は烈火のごとく怒り出しました。2人で交互に電話口に出て、「開業なんか医者のクズがやることや!」「そんな落ちこぼれた生活をするのか!」と激しい口調で罵ります。

一旦電話を切ってもまた両親からかかってきて、「お前の友達の○○君のお母さん(医師として働いている方です)が、『開業なんか』ってお前のことをバカにしとるぞ。」と他人の名前を出して私を貶しました。

「研究者として、教授を目指して生きていくのが正しい道や!」「お前のことなんか、今まで1回も信用したことない!」などと延々罵声は続きました。

なぜそこまで言われないといけないのか理解出来ず、「落ちこぼれで何が悪い!」「教授?そんなもの目指したいと思ったことなんかない。」「信用したことないのなら一生そのままで結構!」と私も激しい口調になって言い返しました。

結局衝突したままどちらも歩み寄ることなく、電話は終わりました。

この時から両親とは疎遠になりました。そのことで後に私は悔やむことになりました。

今になってみると、両親がなぜこのような言葉を投げかけてきたのか、理解できる部分が多くあります。父親は文系学部なので専門は私と異なりますが、東京大学を志望したものの受験に失敗しました。結局東京大学には進学出来ず、その挫折を胸に大学で勉強に励み、大学院を出て研究者として生きて大学教授になりました。

私が勉強で全国1位になり、東京大学に現役で合格して、父親は私に夢を託して大いに期待したことでしょう。東京大学を出て研究者として大成してくれると信じていたようです。

私が心を閉ざして本音を話していない、距離を置いていることは当然気づいていたでしょう。それを上回る期待をかけていて、実現してくれると信じていた子どもが、その期待に反して、「開業したい。」と言った。さらには、一番価値があると考えている教授という肩書きを否定した。それが大きな裏切りや侮辱と感じて、ショックが大きく許せなかったのかなと推測しています。

その考えを受け入れるかどうかは別として、今なら言葉の背景を理解出来るようにはなりました。

そんな衝突はありましたが、精神科医としての生活が始まりました。すぐに栃木に転勤になりましたが、早い段階から栃木県内の複数の病院で当直業務を行い、終わると休みなく大学病院で勤務して、という予想通りの忙しい生活でした。1ヶ月のうち半分の15日以上は当直をして病院に泊まり、生活リズムは不規則になりました。

大学を卒業すると同時に結婚もして翌年には子どもが誕生し、私生活でもめまぐるしい変化がありました。

ランニングを含めて一切の運動をやめたので、大学時代に55kgから増えなかった体重は1年後には67kgになりました。

研修医1年目から多くの仕事を任されて、精神科医としては大きく成長することができました。きついと感じることはもちろんありましたが、「どうせダメなんだから、せめて人よりきついことだけは積極的に引き受けなきゃ。」そう自分に言い聞かせていました。きついことが嫌ではなく、きつければきついほど自分が生きている実感を得ることが出来ました。

また、頼まれた仕事は大体何でも引き受けていました。

「何をやってもダメな私を選んでわざわざ頼ってくれているのだから、断るのは失礼だ。」「断った瞬間に、こいつはやっぱりダメだと見放されてしまう。」

そう考えて、きついことはドンドン引き受けることを意識しました。

患者さんには、「無理のしすぎですから、少し休みましょう。休むことは悪いことではなく、元気になって働くために必要なことです。」と言いながら、「でもダメな奴である私には休む権利はない。」と自分自身は無理を重ねました。

大学時代に「もう吐いて食べられなくなったり眠れなくなる状態からは生まれ変わった。」と過信したことも無理に拍車をかけました。

このまま突っ走ると壊れてしまうなという自覚はありましたが、「壊れたら所詮はその程度の人間でしかないということ。」と意に介しませんでした。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です