精神疾患ってどういうもの?

私たち精神科医の仕事は精神疾患の治療をすることですが、ではこの「精神疾患」とは何でしょうか?

精神疾患には私が治療を受けているうつ病の他に、双極性障害(躁うつ病)、統合失調症、パニック障害、認知症などがあります。

これらの精神疾患の存在に否定的な方々は、「気のせいでしょ?」「病気だって言ったもの勝ちだよね?」「甘えているだけでしょ?」といまだに考えているようですが、気にしなかったり甘えを捨て去れば治るものではもちろんありません。

また、「医師が製薬会社と結託して薬を売るために病気を作っている。だから医師は治す気もない。」などと陰謀めいた話しをする人もいますが、私の知る限りの医師は精神疾患を意図的にねつ造したり、治さずに薬漬けにしようとは微塵も考えていません。簡単には治らないことや一人一人にかける診察時間の短さからそのように疑われてしまうことも多いので、私たち精神科医が反省すべき点でもありますね。

ただ、気のせいでも医師の陰謀でもないとは言っても、精神疾患についてはまだまだ分かっていないことが多いです。

現在有力な仮説として言われていることは、「脳の神経伝達物質の不具合」「脳内のBDNFの減少」です。

脳には1000億以上ともいわれる数多くの神経細胞が存在します。神経細胞と神経細胞の間を「神経伝達物質」というものが動いて、情報を神経細胞間で伝達します。セロトニン、ノルアドレナリン、ドーパミンなどという名前を聞いたことがあるでしょうか?

これらは代表的な神経伝達物質で、セロトニンは気分の安定に関わり、ノルアドレナリンは集中力、意欲、興奮、ドーパミンは意欲、快楽などに関わります。

神経伝達物質の働きが悪くなるもしくは働きが過剰になりすぎることで、精神疾患を発症すると考えられています。

精神疾患の治療に出てくる薬は、これらの神経伝達物質の働きを調節するために使われます。

もう1つ大切なのが「BDNF」というもので、この名前はランニングと精神疾患の治療や予防のお話しで再度出てきます。

BDNFとは「脳由来神経栄養因子」のことです。これは神経細胞の肥料となるもので、神経細胞を新しく作ったり、神経細胞を発達させたり、神経細胞が傷つかないように保護する働きがあります。このBDNFの量が少なくなることも、精神疾患発症の原因と考えられています。

これらのことから分かるとおり、精神疾患は「精神」という言葉がついているものの実際には脳内の問題と考えられています。本人の気の持ちようだけでコントロールすることは出来ません。

では、どのようにして精神疾患は発症するのでしょうか。

これに関してもまだまだ分かっていないことが多いです。個人差があるため一概には言えませんが、発症のしやすさを元々持っていて、それに何かしらのストレスが一時的にもしくは慢性的に加わって、やがて発症するという形なのかなと考えています。

一卵性の双子が同じ環境で同じように育ってきても一人だけ精神疾患を発症するケースも少なからずあり、遺伝だけで決まる、環境だけで決まる、ストレス因子だけで決まる、ということはないようです。

これだけでは漠然とした話しばかりで理解しにくいと思うので、ここからは私自身を例に精神疾患の中でもうつ病を中心にお話しします。

既に話したように、私はうつ病を中学時代、高校時代、大学時代、社会人時代と計4回繰り返しています。

そう話すと、私の表向きの経歴を詳しく知っている方には一様に驚かれます。

「中学受験をして難関進学校に進み、高校時代は全国模試で総合1位を3回取って、東大理三に現役合格をして、国家試験に受かって医師になって自分のクリニックを開いて、マラソンもやっているのに。どこにうつ病になる要素があるの?」

確かに、この部分だけ切り取れば、何の悩みもなく生きてきたように感じられますよね。「それでうつになるって、ぜいたくな悩みじゃない?感じ悪い。」そう思われても仕方ないでしょう。

しかし、実際にはうつ病を繰り返して、失敗はしたものの自殺も試みました。今でもうつ病が完全に消え去ったのではなく、薬を飲んで、再発しないように気を付けながら生活しています。

そんな私が自分自身の体験を話すことで、うつ病患者さんが少しでも回復するヒントになり、まだうつ病発症予防のヒントになり、そしてうつ病患者さんの家族、友人が病気について理解しサポートするヒントになる、そう考えています。

次回からは私自身の性格や実際の症状について詳しく振り返っていきます。